ブルウィップ効果~不足から一転、木材は余っている!?~
2021年初頭から世界的な木材価格の急騰が起こり、国内の建築業界、不動産業界は木材不足に端を発した“ウッドショック”の激震に見舞われました。その影響は工期の遅延や住宅価格の上昇という形で一般消費者にまで及ぶものとなりました。
ところが現在、木材価格は高止まりしているものの、水面下では1年前とはだいぶ状況が変わってきています。
木材は余っている!?
日本の木材自給率は約41.8%(2020年)となっており、輸入木材にかなり依存しています。
従って、日本の木材市況や需給を見る上で重要な指標は港頭在庫動向と言われています。
中でも首都圏に供給される輸入木材製品の多くを荷揚げする東京港15号地の在庫動向は非常に重要だそうです。
その東京港15号地では現在、かつてないほどの在庫が積みあがっています。
東京港15号地の適正在庫水準は12万㎥と言われていますが、2022年8月末時点で前月末比6.7%増の20万9442㎥となっています。
在庫不足で悲鳴を上げた2021年前半は当該在庫が6万㎥でしたので、当時から3倍以上在庫(木材余剰)が膨らんでいるわけです。
近い将来木材価格は大きく下落する!?
しかし、一方で木材の製品価格は(ウッドショック以降の)高止まりのまま。
ここ数ヶ月、木造の住宅着工戸数は減少傾向にありますので、この辺り違和感を覚えますが、木材不足解消のため方々に手を尽くし高値で仕入れたものを赤字を出してまで売りたくないという業者サイドの本音が見え隠れしているようです。
在庫は保管料や資金負担(金利等)がかかってきますので、早晩、在庫解消の動きが出てくると予測でき、近時の住宅需給から木材価格は結構な下落になるのではないかと推測します(あくまでも個人的見解です)。
在庫増は首都圏に限ったことではなく、全国の港湾、販売店在庫に当てはまると推定でき、この在庫量を見ていると、恐ろしい感じがします。
因みに米国の先物市場(CME)の木材価格は現在、ピーク価格比▲75%程となっています。
ブルウィップ効果
木材不足から一転、過剰在庫となったわけですが、何故、このようなことになったのでしょうか。
コロナ禍を背景に木材価格が高騰し、世界的に木材争奪戦が繰り広げられ、加えてロシアウクライナ紛争による連想的な品不足感に恐怖し、確保できるものは何でも発注するとしたわけです。
各々が仮需を積み上げ、さらに相乗効果によって全体として過剰に膨らんだということでしょうか。
仮需が積み上がって需要を大幅に超過する現象、実はこれ、経済用語で“ブルウィップ効果”と言います。
ブルウィップは牛などに使う鞭のことです。鞭の“しなり”が先端に行くほど大きく“しなる”ようにサプライチェーンにおいて顧客(需要)サイドのごくわずかな需要変動が拡大しながらメーカー側へ伝わっていく様子を現したものです。
昔、子供の頃にやった伝言ゲームのようなものでブルウィップ効果は“失敗した伝言ゲーム”と言えるでしょう。
【ブルウィップ効果の事例】
ある製品が爆発的に売れたため、スーパーは先を見越してこれまでの発注量の2倍をメーカーに発注
⇓
2倍の注文を受けたメーカーは注文量の増え方からある程度の余裕をもって、注文量の1.5倍分の材料を原料メーカーに発注。
⇓
通常の3倍(2倍×1.5倍)の注文を受けた原料メーカーは受けた注文の余裕をみて1.5倍を生産し、最終的には通常の4.5倍(2倍×1.5倍×1.5倍)の在庫が積み上がる。
このように川下(顧客側)から川上に向かうほどブルウィップ効果で需要予測に誤りが生じ、在庫が膨れ上がります。そして、この時に需要が減少となれば、その在庫調整に非常に苦しむことになります。
ブルウィップ効果は世界規模で拡大!?
2020年初頭にコロナ禍が襲い(世界の主要都市でロックダウンが行われ)、前例のない規模とスピードで世界規模のサプライチェーンが分断されました。
その結果、世界のあらゆる分野で極度の物不足が発生したわけですが、現在、サプライチェーンは急速に回復しつつあります。
このことだけを考えても少し怖くなりませんか。
過剰在庫は日本の木材に限った話ではありません。
世界の様々な業界や企業でどれだけのブルウィップ効果が生じ、潜在的な過剰在庫があるのでしょうか・・・。
そして、この状況で世界的な景気後退が起きると需給バランスが大きく崩れると考えられます。
実際、品不足の代表的な部品であった半導体ですが、一部車載用の半導体を除き、現在では不足感は解消され、在庫が増えてきているようです。
実はディスインフレの局面にあるのかもしれません
今年2月24日にロシアがウクライナに侵攻し、世界的なインフレショックをもたらしました。エネルギー、金属、農作物等々あらゆるものが高騰し、日本でもガソリンや食品の価格上昇が顕著になり、社会問題にまで発展しています。
しかし、ロシア・ウクライナ紛争終結の兆しすら見えない今、商品市況は下落局面に入ったようです。
それぞれピーク比で原油(WTI)▲35%、金▲18%、銀▲33%、銅▲30%他、農作物においてもピーク比で小麦▲29%、大豆▲21%、綿▲41%、ゴム▲26%となっております(いずれも先月末時点)。
世界的な金融引き締めによる景気後退を織り込みに動いているわけですが、色々な分野で供給過剰に陥っているとも考えられます。
インフレに意識が向きがちですが、既にディスインフレの局面に入っており、(かなりの極論となりますが)デフレの種がまかれているのかもしれません。
木材に限らず、様々な業界で潮目が変わってきているように感じます。
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