分譲マンションの建て替えについて考える~マンションの老朽化問題~ 後編
前回の続きです。
分譲マンションの建て替えについて考えみました。
マンション建替えを阻害する要因
マンション建替え実績から建替えが成功する必要条件を読み解きましたが、建替えを阻害する要因にはどのようなものがあるのでしょうか。
平成20年に内閣府・国交省が「分譲マンションの建替え等のアンケート調査」(資料⑥)を行っておりますが、この結果から事業上、合意形成上には様々なハードルがあり、そもそも建替え決議が合意に至るのは至難と言わざるを得ません。
建て替えを促進するための法制度と今後の改正の論点
老朽化マンションの建て替えが円滑に進むように行政も法制面を改正、整備してきました。
現在、マンション建て替えに係る法律は①マンションの建替え等の円滑化に関する法律(マンション建替え円滑化法)、②区分所有法、等があります。
中でも区分所有法は建て替えに係る合意形成の基準が定められています。
冒頭の葉梨康弘法務大臣が諮問した法制審議会では老朽化マンションの建て替え等をさらに促進するために以下にように区分所有法改正について議論されるようです。
1.合意形成基準(建て替え決議)を5分の4の同意
→“4分の3”や“3分の2”に引き下げを検討
2.現在、所在不明の所有者は決議に対して「反対」とみなされているが、
所在不明者は決議から除外できる仕組みを検討。
3.被災マンション法の見直し(建て替えや敷地売却の合意要件緩和)を
検討。
政府の対応策は建て替え決議の合意形成に傾倒している感があり、正直、期待できないと言わざるを得ません。
これまでの建て替えの実態や阻害要因を見れば、経済条件(所有者の資金負担)にこそ問題の本質があるとがわかります。
単純に合意形成基準を緩和すれば良いというものではなく、建て替えをすることによる経済的インセンティブがなければ建て替えは実現しないと思います。
マンションの建て替えは絶望的!?
これまでの建替え事例等を見る限りマンションの建て替えは稀なケースでのみ可能でした。
現時点ですらこの状況で、今後10年、20年経てば、老朽化マンションがさらに増え、所有者の高齢化も進み、その結果、建て替えは事実上不可能な状況に陥ってくと容易に想像できます。
1970年代のマンションであれば容積率に余剰があるものもありましたが、現在では地価が高い地域ほど容積率の余剰が少ない傾向があります。
容積率に余裕がなければ一般的に所有者の負担金が1,500~2,000万円となり、負担できる所有者は圧倒的に少ないと考えられます。
平均寿命から余命10~15年となった高齢者にとっては数百万の負担であっても建替えに反対するだろうと想像できます。
現時点でさえ築40年のマンション所有者の半数が70代以上と言われておりますが、今後はさらにウェートが高まっていくことを考えるとマンション建替えは非現実的な選択肢と言わざるを得ません。
一方で実現性はともかく「建て替えの際に容積率を一律2倍にしてみてはどうか」と考えてみましても、人口動態が減少(需要減少)に向かっていく中で、増やした容積率分の膨大な戸数(数十~数百万戸)を吸収する需要が国内にはありません。
いずれにしても、客観的に見ればマンションの建て替えはできないと考えた方が合理的です。
マンションはどのくらい持つのか?
一般的にマンションの建て替え時期は築後50年を意識されますが、そもそも、鉄筋コンクリート造のマンションは“どのくらい持つ”のでしょうか。
税務会計上の法定耐用年数は47年となりますが、建築学上では適切にメンテナンスを施せば100年以上持つとされているようです。
実際、国交省は「適切なメンテナンスを前提に鉄筋コンクリートのマンションの耐用年数は100年以上」との見解を持っています。
つまり、しっかりと適切に管理されているマンションであれば(自身の代では)建て替えを考える必要がないと言えるのではないでしょうか。
将来を見据えて
現実的には、マンションは建て替えを想定しないという前提で人生設計を考えた方が良いと思います。
これからマンションを購入される方は「これから何年住めるのか」を検討の土台として対象マンションの長期修繕計画の内容や修繕積立金の状況を見極めていくことが肝要かと考えます。
また、既にマンションにお住いの方は、日頃から管理組合の理事会や通常総会に出席したり、議事録をチェックして適切に管理されているかを確認することが重要だと思います。
そして、管理上の問題が露呈したり、将来を悲観するようなことがあれば、売却を検討する必要があるのかもしれません。
いずれにしましても、「マンションは管理を買え!」ということに帰結するのだろうと思います。
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