分譲マンションの建て替えについて考える~マンションの老朽化問題~ 前編
先月、葉梨康弘法務大臣は老朽化したマンションの建て替え等が円滑に進むよう区分所有法改正などの検討を法制審議会に諮問したようです。
これは老朽化が進むマンションが社会問題化しつつあり、建て替えがうまく進んでいないことに対する危機感が背景にあります。
老朽化マンションの取り巻く環境、建て替えの実態、今後の行く末について考えてみました。
老朽化マンションを取り巻く環境
日本において本格的に分譲マンションが普及してから50年経過し、その間に人口動態も高齢化へ大きく変容し、現在、分譲マンションでは以下のような建物の老朽化と所有者の高齢化という2つの問題が起きています。
1.2021年末時点でマンションの総戸数は685.9万戸、内築40年以上のマンシ ョンは115.6万戸となり、マンション総戸数の約17%を占める状況 。 (資料①)
2.この築40年以上のマンションは今後、猛烈な勢いで増加していく。
(10年後に249.1万戸、20年後には425.4万戸と10年毎に倍増していく勢い) (資料②)。
3.築40年以上のマンション所有者の約半数が70代以上(資料③)。
日本全体の高齢化と共に今後、さらにマンション所有者の高齢化は進んで いきます。
4.築40年以上のマンションで所有者不明が存在する割合は全体の13.7% 。 (資料④)。
所有者不明及び連絡先不明のマンション所有者が増えており、築年数古い マンションほどその傾向は顕著です。
要するに、今後、建て替えを必要とするマンションが急増し、そういったマンションの所有者は保守的な高齢者が多くを占めるということになり、建て替えがより困難な環境へと変わっていくと想定されます。
なお、世帯層の高齢化についてはこちらの記事でも取り上げています。
老朽化マンション建て替えの実態
このデータによると(上記の集計をご参照)、
(1)1987年以降(過去35年間)の建て替え実績は全国で2.5万戸。 全国の築40年以上の分譲マンションは115万戸あることから実績は 極めて少ない。
(2)建て替え時の平均築年数は40年程。
(3)東京都のマンションが総建て替え実績の55%と半分以上占めている。 因みに、全国の築40年以上の分譲マンション115万戸の内、東京都 は(推定)約40万戸(34.7%)であり、この割合からみても東京都に 過度 な偏りがあることがわかります(資料⑥)
(4)建て替え後の増床率(戸数の増加率)は平均で91%となっています。 単純に言えば建て替え後は戸数が倍になっているということです。
(5)因みに千葉県の建て替え実績はわずか5件でした。 (千葉市2件、船橋市2件、市川市1件)
マンション建て替え実績から見えてくること
まず、マンションストック量に対して実績が極めて少ないことから現時点でさえ建て替え事業は非常に困難であることがわかります。
そして、建て替え後には倍の戸数を確保できないと事業として成り立たないと読み取れます。
つまり、マンションの容積率に余剰があって建て替えによって増えた戸数を売却することで元の所有者の資金負担を軽減している事例が大半だと推定できます。
実際、過去の建て替え事業を個別に見ていくと、金銭負担なしで建替え前と同等以上の専有面積が取得できるケースが多くを占めています。
勿論、中には全額金銭負担となったケース(東京:約2,000万円、名古屋:1,500万円)もありますが、多くのケースでは過去に公的機関により供給されたマンションで、中低層マンション且つ広い敷地の未消化容積率が大きい物件の建て替えスキームが目立ちます。
一方で、建て替え実績に占める東京都のマンション割合が高い点も見逃せません。
未消化容積率の活用による余剰部分を建て替え原資とするスキームの場合、地価の高さや需要の高い立地でなければ難しいということだと思います。東京都の実績の中でも千代田区、港区、新宿区、渋谷区の事例が突出して多いのはこの辺りが関係しているからだと思います。
過去の事例から建て替えが成功するためには、①建て替え前の状態で容積率に2倍程度余剰があること、②東京都心のように地価が(過去に比べて)大きく上がっていること、③マンション需要の旺盛な立地であることが必要条件となるようです。
(続きは次回へ)
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